うつ病
うつ病とは
うつ病は気分の落ち込みや憂うつな気分、意欲低下や思考力低下などやる気が出ないといった精神的な症状のほかにも、眠れない、疲れやすい、体がだるいといった身体的な症状が出現することのある病気です。気分障害のひとつであり、気分障害は大きく「うつ病性障害」と「双極性障害(躁うつ病)」にわけられます。
うつ状態とうつ病の違い
日常生活のなかで、ストレスなどから憂うつな気分になったり、やる気がなくなってしまうといったことは誰にでもあることです。学校や職場などの人間関係がうまくいかない、受験や仕事で失敗してしまった、大切な人との別れなどが原因で、つらい気持ちになったり、何もする気がおきない、食欲がでないといった症状が出ることは一般的な反応です。ある程度の時間経過や原因の解消などで自然に回復していくものです。このように落ち込んでしまったり、やる気が出ない状態のことを「うつ状態」と呼び、脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン等)のバランスが崩れているとされているうつ病とはわけて考えられています。ただ、「うつ状態」なのか「うつ病」なのかを明確に区別することはできません。
気質(性格)やきっかけ
うつ病の原因はまだはっきり分かっていません。脳内の神経伝達物質(セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミン等)の異常ではないかと考えられています。気分や意欲などは脳が生み出すもので、脳機能の異常と考えられています。神経伝達物質の異常だけではなく、うつ病になりやすい気質(厳密に言うと性格とはことなります。)やうつ病のきっかけとなるストレスがあり、それら複合的にからみあいうつ病が発症すると考えらています。うつ病になりやすい気質は生真面目、完璧主義、自責傾向、気を遣いすぎるなどがあり、このためストレスを受けやすいと考えられています。
またいじめや失敗、大切な人との別れといったつらいことだけではなく、昇進や結婚・出産等喜ばしいことであっても環境の変化としてストレスになりうつ病を引き起こすこともあるといわれています。
症状
気分のおちこみや意欲低下、不安といった精神症状に加え、体のだるさ、疲れやすさなどの身体症状がみられることがあります。
精神症状
- 意欲低下
- 気分の落ち込み
- 不安やあせり
- 趣味等の好きなことができなくなる
- 集中できず、頭がうまく回らなくなる
- 考えが悲観的になる
- 口数が減る等
身体症状
- 食欲低下(過食の場合もある)
- 不眠(過眠の場合もある)
- 性欲減退、勃起不全
- 下痢や便秘
- 頭痛や腹痛等
検査・診断
「DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル」等の診断基準が用いられています。DSM-5では以下のように定義されています。上記のような症状をきたしていても、うつ病が原因ではなく、甲状腺の機能障害等の身体疾患やステロイドなどの薬剤が原因のこともあるため、問診上必要な場合は採血なども行います。
A-Cをすべて満たす。
A: 以下の症状のうち5つ (またはそれ以上) が同一の2週間に存在し、病前の機能からの変化を起している; これらの症状のうち少なくとも1つは、1 抑うつ気分または 2 興味または喜びの喪失である。 注: 明らかに身体疾患による症状は含まない。
1. その人自身の明言 (例えば、悲しみまたは、空虚感を感じる) か、他者の観察 (例えば、涙を流しているように見える) によって示される、ほとんど1日中、ほとんど毎日の抑うつ気分。注: 小児や青年ではいらいらした気分もありうる。
2. ほとんど1日中、ほとんど毎日の、すべて、またはほとんどすべての活動における興味、喜びの著しい減退 (その人の言明、または観察によって示される)。
3. 食事療法中ではない著しい体重減少、あるいは体重増加 (例えば、1ヶ月に5%以上の体重変化)、またはほとんど毎日の、食欲の減退または増加。 (注: 小児の場合、期待される体重増加が見られないことも考慮せよ)
4. ほとんど毎日の不眠または睡眠過多。
5. ほとんど毎日の精神運動性の焦燥または制止 (ただ単に落ち着きがないとか、のろくなったという主観的感覚ではなく、他者によって観察可能なもの)。
6. ほとんど毎日の易疲労性、または気力の減退。
7. 無価値観、または過剰あるいは不適切な罪責感 (妄想的であることもある) がほとんど毎日存在(単に自分をとがめる気持ちや、病気になったことに対する罪の意識ではない)。
8. 思考力や集中力の減退、または決断困難がほとんど毎日存在 (その人自身の言明、あるいは他者による観察による)。
9. 死についての反復思考 (死の恐怖だけではない)、特別な計画はない反復的な自殺念慮、自殺企図、または自殺するためのはっきりとした計画。
B: 症状は臨床的に著しい苦痛または社会的・職業的・他の重要な領域における機能の障害を引き起こしている。
C: エピソードが物質や他の医学的状態による精神的な影響が原因とされない。
治療
休養
十分休息し体を休めることが大切です。学校や職場、家庭などでのストレスを軽減できるような環境調節も必要な場合があります。規則正しい生活とバランスのとれた食事をとることも大切です。
薬物療法
うつ病の治療には薬物が必要な場合もあります。SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)やSNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)などの抗うつ薬、不眠が強い場合には睡眠薬、不安発作などの不安症状が強い場合は抗不安薬などを併用することもあります。抗うつ薬をしっかりした量内服しても改善しな場合は抗精神薬などによる増強療法を行うこともあります。当院では日本うつ学会などの「うつ病ガイドライン」にそった薬物療法を心がけています。
精神療法
十分な休息や薬物療法の組み合わせによりうつ病はかなり回復とすると言われていますが、原因となったストレスへの対処法などを学ぶことにより、よりよい状態を維持し再発を防ぐことができます。
再発予防
しっかりと休養をして十分量の抗うつ薬を十分な期間内服することが必要です。ちょっとよくなったからといって、すぐに内服をやめてしまうと再発する可能性が高くなります。